ハーモニカ。どこがいいか….というと、ハーモニカは、小さい。だから、いつでも、ポケットに入れて置けるし、全然、かさばらないから、気にもならない。そして、吹きたい時には、それを、ポケットから取り出して、その場で、すぐに、吹ける。自分が演奏するのは、ハーモニカだけではないのだが、他の楽器では、こうは、いかない。この、ポケットに、楽に、収まるほどに、小さい、というのは、間違いなく、ハーモニカの、大きな魅力だ。それに加えて、もうひとつ。ハーモニカは、安い。買うにも、手頃で、持ち歩くに、手軽。それが、ハーモニカだ。
中学生の時、ビートルズに影響されて、音楽の味を、知った。そして、同じ様に、ビートルズに影響された、学校の仲間達と共に、バンドを、始めた。その、はじめてのバンドでの、自分の、唯一の、担当楽器が、ハーモニカだった。もっとも、自分は、バンドのシンガーだったから、何なら、別に、楽器など、やらなくても、良かったのだ。でも、ビートルズには、手ぶらで歌う、専門のシンガーというのが、いない。当時、「ビートルズごっこ」の延長みたいな気持ちで、バンドを始めた自分としては、まるで、ビートルズの、メンバー達の様に、ギターや、ベース、ドラムスを担当している仲間達が、どんなに、うらやましかったか、わからない。でも、当時の自分には、楽器を買う金などは、なかった。家は、貧しくはなかったのだが、小遣いというものを、親から、もらっていなかったし、
自分が、楽器が欲しいからと言って、そうか、じゃあ、買ってやろう….と、買ってくれる様な、親でもなかった。そんな中で、ハーモニカは、買うまでもなく、家に、あった。どういういきさつで、それが、家にあったのか。誰が、吹いていたのか。全く、何も、わからなかった。わかるのは、明らかに、誰も、使っていなくて、放ったらかしにされている、という事だけ。それで、その、ハーモニカを、バンドで、自分が、吹く事にした。ハーモニカだったら、ビートルズの、いくつかの曲の中で、使われている。自分が、ビートルズのメンバーになった様なつもりで、ハーモニカを吹いて、ビートルズごっこが出来る。ただ、それだけだった。楽器として、ハーモニカが、どう、こう、などという気持ちは、全く、なかった。ハーモニカを吹いている、ジョン・レノンに対する、思い入れも、当時は、なかった。その頃の、自分のアイドルは、断然、ポールだったから。そんな訳で、要するに、楽器を買う金がないから、ギター・ベース・ドラムスで、ビートルズの曲を演奏する事が出来ない、当時の自分が、せめて、ハーモニカで、ビートルズのPlease Please Meのイントロを吹いて、ビートルズ気分になろう….と思って、その為にだけ、ハーモニカを、吹き始めた、中学生の、自分だった。
それから、40年位、経った。その、長い年月の間、音楽は、ずっと、大好きで、数え切れないほどの、いくつものバンドで、歌い、楽器も、演奏して来たし、バンド以外でも、自分ひとりで、歌い、演奏して来た。もちろん、自分で働いて、ギターでも、ベースでも、楽器は、何でも、買える様になったし、買わなくても、人から、もらう事も、多々、あった。そんな、長い年月の中で、ギターも、ベースも、ピアノも、弾ける様になったし、打楽器を覚えて、バンドで担当していた事もある。
生活の場が、日本から、アメリカに移っても、音楽活動は、変わる事なく、ずっと、何らかの形で、続いて来たし、続けて来た。ひとつ前の職場は、老人の為の、総合施設だったが、そこでは、定期的に、歌と演奏の時間をもらって、歌いながら、そこにある、備えつけのピアノを、弾いていた。ハーモニカは、首から下げた、ハーモニカ・ホールダーに固定して、歌いながら、適宜に、吹いていた。時には、ハーモニカそれ自体で、ソロ楽器としても、吹いていた。
今現在の職場には、備えつけの楽器は、何も、ない。ピアノも、ないし、何故か、誰かのギターが、オフィスに、置きっ放しになっている….という様な事も、ない。自分の、歌と演奏の時間を、もらっていて、家から、ギターを持って来て、弾く…という事も、ない。
で、何なのか….というと、ハーモニカだ。すでに、書いた通り、自分自身の、歌と演奏の時間….などというものは、ないが、施設の利用者達や、同僚の、誕生日には、ハッピー・バースデイを吹き、クリスマスには、クリスマスの歌、あるいは、どんな、特別な日でもないが、時間があって、施設の利用者の為に、何か、演奏してあげよう….という様な時には、思いつくままに、何でも、吹いている。
中学生の時に、何とも、お粗末な動機で、人前で吹いた、初めての楽器、ハーモニカ。その、ハーモニカを、40年後の、今でも、吹いているのだから、世の中って、何が、どうなるか、わからない。
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