心の街・新宿.

心の街・新宿.

東京では、狛江という、小さな町に、家族と共に、そしてひとりでも住んでいたが、この町自体には、思い入れは、全然、ない。狛江にあった、祖父の家は、祖父が死んで、なくなってしまい、同じく狛江にあった、両親の家も、これまた同じく、両親ふたりとも死んで、家もなくなってしまった。

そうなった今、狛江は、単なる、自分とは何の関係もない、多くの町のひとつになってしまった。ここ20年近くは、アメリカに住んでいる僕が、時折り、日本に戻り、東京に戻っても、狛江などは、用事がなければ、行かないし、別に、行きたいとも思わない。僕が、思い入れがあって、行きたいと思うのは、狛江ではなくて、同じ小田急線沿線で、狛江駅から乗って、終点の、新宿だ。

何故、新宿なのか。わからない。何故、渋谷でも、下北沢でも、原宿でも、池袋でもなく、新橋でも浅草でもなければ、神田でも六本木でも銀座でもお茶の水でもなくて…….街の名前の羅列はこの辺でやめて…….何故、新宿なのか。新宿の百人町で生まれ育った父親の、新宿への親しみが、無意識的・潜在意識的に、受け継がれているのか。そうかも知れないし、そうではないのかも知れない。

とにかく、ホーム・タウンの様に感じて、一番、居心地がいいのは、何と言っても、新宿で、その次が、多分、埼玉の、浦和だ。

まだ、日本に住んでいた頃、東京に住んでいた頃は、何かというと、新宿に行き、日がな、新宿で過ごしていた。コースが、決まっていて、駅を出ると、まっすぐ、NSビルに向かい、到着すると、地上階の、大時計下の丸テーブルに座って、そこへの途上、自動販売機で買った、缶コーヒーを飲み、タバコを一服した。それから、同じ階にあった、CDショップに行って、CDをチェックするか、これも又、同じ階にあった、紀伊國屋だか、三省堂だかの書店に行って、書籍をチェックした。

気が向いたら、NSビルを出て、レコード屋/CDショップ巡りをした。当時、新宿にあった、めぼしい店は、全部、知っていた。そうやって、何年も、新宿で過ごしている間に、CDが登場し、徐々に普及して行き、やがて、完全に、レコード盤に取って代わった。

小腹がすいたら、コンビニで、サンドイッチを買って食べた。もっと、しっかり食べたかったら、新宿駅の反対側にある、どんぶり飯の店に行って、カツ丼を食べた。

こうして、書いていると、街への親しみが、よみがえって来る。

そう言えば、仲間達と、路上バンドをやったのも、新宿だった。のちに、路上でライブをやるのが、流行になり、やがて、お決まりのファッションになる前の話だ。

ギターと、もうひとりのギター、そしてボンゴの、トリオ、というか、スリー・ピースのバンドで、僕の担当は、ボンゴだった。ボンゴを叩いていたのは、ロック・バンド、頭脳警察の、ドラマー/パーカッション奏者だった、通称

トシ(石塚敏明)の影響だった。歌は、ギターのひとりが、主に歌っていた。コーラスが必要な歌は、僕が、ボンゴを叩きながら、歌った。一曲だけは、僕の独演で、ボンゴを叩いて、ひとりで歌った。

それは、ハリー・ベラフォンテの、「Day-O」という歌だった。

狛江から、新宿まで、歩いた事もあった。かなりの距離だったが、一度ならず、何度も、歩いた。新宿まで、歩き切った後は、又、歩いて、狛江まで、帰った。

書いていると、忘れていた事が、ひとつ、又ひとつと、思い出されて来る。それが、僕の新宿だ。

ひょっとしたら、「星願」という映画を観たのも、あれは、新宿じゃなかったっけ?確か、新宿だった様な気がする。それは、音楽バカである結果、映画も含む、音楽以外の事には、興味が余りいかない僕の、例外的に、大好きな映画だった。友人達数人と観て、気に入ったので、しばらくして、ひとりで観に行った。悲しい映画だった。何時間も、同じ映画館の中で過ごして、涙でグシャグシャになりながら、二度も、その映画を観た。映画館の前で、「三色弁当」という、ご飯の上に、卵とひき肉と、もうひとつ、何かのオカズが、ビッシリと敷いてある弁当を売っていた。朝の9時頃(多分)、それを買って、映画館に入り、物語を、はじめから最後まで観て、

昼頃になったら、映画館の中で、その「三色弁当」を食べ、又、同じ物語を、最初から最後まで、感動して、泣きながら、観る。やがて、「本日の上映は、すべて終了しました。又のご来館をお待ちしております」というアナウンスが流れて、映画館を出ると、朝、映画館に入った時は、まだ、明るかったのが、すっかり、暗くなっていた。そこで、晩ご飯に、今度は別のものを食べればいいものを、又、飽きもせずに、その「三色弁当」を買って食べ、電車で帰って行ったのを、覚えている。

新宿の思い出を、ひとつひとつ思い出して、書いていったら、本当に、キリがない。新宿は、やっぱり、僕の街だ。心の、ホームタウンだ。今年(2024年)は、9月に、つまり、今から2ヶ月後に、又、日本で過ごす予定なのだけれども、妻と一緒に、新宿を訪れるその時を、今から、もう、楽しみにしているし、胸をときめかせて、心待ちにしている。

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