心のロック・バンド – 頭脳警察.

心のロック・バンド – 頭脳警察.

「日本のロック・バンド?イギリスのバンドや、アメリカのバンドのサル真似ばかりで、どれもこれも、みんな、ダッセエー!」。そう、思わざるを得ないほど、日本のロック・バンドというのは、ひとつの例外もなく、オリジナリティーに欠けたバンドばかりだ….そう、思っていた。少なくとも、僕が、かつて、知っていた範囲では。そして、本物の、日本のロック・バンド、「頭脳警察」を、知るまでは、そう、思っていた。

日本のバンドは、「ひとつの例外」もなく、英米のバンドの、ダサいサル真似ばかり….そう思っていた僕が、少なくとも、その、「ひとつの例外」を、ついに、見つけた。その、「ひとつの例外」は、ビートルズにも、イーグルスにも、ジミ・ヘンドリックスにも、ドアーズにも、ボブ・ディランにも、英米のどんなバンド、どんなミュージシャンにも匹敵するほど、最高にイカしていて、カッコよかった。バンドの名前は、漢字四文字で、「頭脳警察」だった。

メンバーは、ヴォーカル・ギター・作詞作曲の、PANTA(中村治雄)と、ドラムス・ボンゴ・コンガ・パーカッションの、トシ(石塚敏明)の、ふたりだけ。

僕が、初めて、この、PANTAという人の存在を知ったのは、テレビの、「ファイティング80」という番組だった。それは、日本のバンド/アーティストを、ひとつずつ/ひとりずつ、スタジオ・ライヴで紹介する、音楽番組だった。

その頃、PANTAは、実質的には、ソロ・アーティストとして、けれども、形の上では、バンドのシンガーとして、PANTA&HALというバンドで、歌っていた。

テレビ画面に映るPANTAを観、その歌を聴いて、この人は、どういう人なんだろう….と、そう、思った。余りにも、独特だった。他の誰にも、似ていなかった。独自の存在で、淡々と歌っていた。

その、「この人は、一体、どういう人なんだろう?」という、誰にともなく向けた質問は、そのあと、間もなく、思いがけない形で、答えられる事になる。

その頃、高校生だった僕の家には、同じ高校の友人達が、しょっちゅう、遊びに来ていた。その、友人達のひとりが、頭脳警察のレコード、「頭脳警察セカンドアルバム」を、カセット・テープにダビングして、僕の家に持参して来て、僕の部屋で、かけたのだ。

あり得ない….何度も、そう、思った。耳を、疑った。僕にとっては、奇跡だった。日本のバンドが、れっきとした日本語で、最高にオリジナルな、シビレるほどにカッコいいロックを演っていた。

英米のバンド/アーティストの、

ダサいサル真似でなどは、全くなく、誰の物真似でもなかった。

同LPの一曲目、「銃をとれ」で、ガツーンと一撃を受け、メドレーで続く二曲目、「マラブンタ・ヴァレー」で、完全にノック・アウトされた。すべてが、堂々と、オリジナリティに満ちあふれている、PANTAの歌。歌われている言葉。そして、それをバック・アップする、ギター、ベース、ドラムス。さらに、それらに加えて、「主役は、オレだ!」と言わんばかりに、狂った様に乱打し、なりふり構わず、暴れまくる、もうひとりのバンド・メンバー、トシの、ボンゴと、コンガ。すべてが新鮮で、驚きで、感動だった。

この、PANTAには、その瞬間から、今に至るまで、音楽的にだけではなくて、生き方でも、多大な影響、莫大な影響を受けている。

そして、PANTAにだけではなくて、頭脳警察の、もうひとりのメンバー、トシにも、僕は、大きな影響を受けている。それまでにも、無数のロック・バンド/アーティストの曲を聴いて来たが、ドラムス/パーカッションが、これほどにも、カッコよくて、最高にイカしていると感じたミュージシャンは、この、トシが、初めてだった。現に、この、トシの事が、念頭にあって、僕は、後日、楽器の町・お茶の水に行き、ボンゴを購入し、仲間と始めた、街頭演奏のバンドで、叩き始めた。

すでに紹介した、「頭脳警察セカンドアルバム」は、初めて聴いた、その日のうちに、すっかり、お気に入りになった。このアルバムを、聴き続けながら、さらに一枚、もう一枚と、頭脳警察の、他のレコードも手に入れて、聴いていった。「頭脳警察3」。「誕生」。「仮面劇のヒーローを告訴しろ」。「悪たれ小僧」。どれもが、独特で、オリジナリティにあふれていて、どれもが、カッコ良かった。

実は、頭脳警察のレコードは、これ以外にも、存在していた。それが、当時は、「幻のファースト・アルバム」と言われていた、「頭脳警察1」だった。何故、「幻のアルバム」と言われていたかと言うと、このアルバムが、入手困難だったからだ。この、「頭脳警察1」というアルバムは、レコード会社によって制作されたものの、「歌詞の内容が、社会的な公共性に欠けている」という理由で、世に出ようとしていた直前に、発売中止になった。数年後に、頭脳警察の事務所が、同アルバムの、通信販売の広告を、バンドに無断で、勝手に出した。それを見て、申し込んで来た、600人の購買者の為に、同アルバムは、PANTA自身の手によって、600枚だけつくられ、“超”限定版として、通信販売され、初めて、世に出た。

そんないきさつがあって、このアルバムは、ほとんど、世の中になかったので、だから、「幻の、ファースト・アルバム」だった訳だ。ちなみに、僕は、かつて、小田急線・町田駅の周辺にあった(今もあるかどうかは不明)、行きつけの、マニアックなレコード屋で、このアルバムが手に入るかどうか、相談した事がある。それに対して、店主から、この様な返事が返って来たのを、覚えている。

「お約束は出来ませんが、その為の費用として、10万円を用意して下さるなら、探して見ます」。

その頃には、CDなどというものは、まだ、世に存在していなかった。やがて、CDが登場し、アッという間に普及し、レコードに代わって、とっくに、音楽メディアの主流になった頃、「頭脳警察1」も、CDになり、初めて、手軽に、誰でも、買える様になった。

(もっとも、その頃には、「頭脳警察1」は、とっくに、僕のカセット・テープに、その音源が収められていて、改めて、CDを買う必要もなくなっていたのだが)。

イカン、イカン。頭脳警察の話を始めると、やめられない・とまらない、かっぱエビせん….で、限りなく、長くなってしまう。この記事を読んだって、ほとんどの人は、何の事だか、サッパリ、わからないだろう。「頭脳?警察?何、それ?」「パンタ?パンタって、上野動物園の?…..ア、アレは、パンダか…..」てなもんだろう。それは、わかっている。わかっちゃいるけど、やめられネエ(ちなみに、植木等は、PANTAと並ぶ、僕の、心の師である)。

その、PANTAが、去年、死んでしまった。高校時代から、今に至るまで、僕は、彼の歌と共に、歩んで来た。彼の死から、もう、一年も経つのに、いまだに、彼の死を思うと、悲しみで、いっぱいになる。でも…..PANTAは、僕の心の中で、生きている。その、歌と共に、これからも、ずっと……。

PANTA!心から、ありがとう!

( 延々と、書き続けるつもりだったのが、流れに任せていたら、不思議と、きれいに、終わった。)

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